第10回研究会の開催報告(2022年5月29日)
更新日:6月5日
2022年5月29日に第10回研究会を開催しました。今回の研究会の第一部では鄭傚民さん(京都大学)が「セマウル運動(ODA):内発的発展の外発的起動は可能か」というテーマで発表をしました。続く第二部では、石暁宇さん(横浜国立大学)が「なぜ民主政治と政府の開発能力の間のトレードオフにうまく対応できるケースとそうでないケースがあるのか?」と題した自身の博論研究について報告しました。最後に、研究部会の成果発信について意見交換がされました。
第一部:鄭さん発表
鄭さんの発表「セマウル運動(ODA):内発的発展の外発的起動は可能か」では、韓国のセマウル運動について詳細に報告した上で、それが韓国のODAにおいて開発の成功体験として活用されていることを取り上げ、その有効性や課題を共有しました。また、韓国ODAがセマウル運動を韓国の成功体験として開発途上国に移植するアプローチが、開発途上国の内発的な発展を促進することにつながるのか、という問いを立て、鶴見和子の内発的発展論を参照しながら批判的な考察を交えて議論を展開しました。質疑応答では、韓国がセマウルODAを開発モデルとして活用することの「意図」を問うものや、セマウル運動に対する地域住民の評価はどうであったのか、また、「運動」と名付けられた所以は何か、等、多岐に亘って議論が行われました。それらの質問、コメントを受け、鄭さんは、セマウル運動を内発的発展論の枠組みで検討するに留めず、また、実際に今セマウルODAの現場で起きていることを調査しながら、引き続き研究を深めていきたいと述べました。
第二部:石さん発表
石さんは自身の博士論文の研究テーマ「なぜ民主政治と政府の開発能力の間のトレードオフにうまく対応できるケースとそうでないケースがあるのか?」について発表を行いました。石さんの研究は、国家の民主化と開発能力がトレードオフの関係にあるという問題を出発点に、そのトレードオフの影響低減に成功した事例として日本にフォーカスし、大正期と戦後復興期の開発政策策定プロセスの比較分析に取り組むことが報告されました。質疑応答では、民主化をしていなくても開発指標が改善している例をどのように位置付けるのかといった、当該研究における「開発」の意味を問うものや、民主化という言葉それ自体にも分散型、集中型などいくつかの形態が考えられるなど、民主主義の多様性について活発に議論が交わされました。
研究部会の成果発信について
最後に、約1年半続けてきた研究部会の成果発信方法について、様々に意見交換がされました。これまでの研究発表と議論の内容を振り返った上で、総括する切り口として「自国の開発経験を他国に移転する援助」を取り上げながら、研究部会の名前である「ODAの歴史と未来」について考察することが提案されました。成果発信の場としては、色々なオプションを検討しながら、先ずは国際開発学会の全国大会にて、セッションを企画することが決まりました。具体的構想については、次回の研究会にて汪さんより報告いただきます。
所感
今回も大変学びの多い研究会でした。セマウル運動について聞いていると、日本の生活改善運動を思い出しました。しかし、住民間の協働だけでなく競争促進にも重点が置かれていたこと、それがODA実践にも用いられていることは、日本的アプローチとは似て非なるものだと思いました。一見類似するアプローチの中に、日韓の特徴が浮き彫りになる要素があることがわかり、非常に興味深かかったです。また、民主化の多様性に関する議論は、ミャンマー、アフガニスタンの軍事クーデターによる政変に続き、長期化するウクライナ戦争といった喫緊の課題に向き合うに際して、欠かせない重要テーマだと感じました。私たちが何気なく使う言葉の中にもグラデーションが常に存在すること、そのグラデーションの差異を明らかにしていくことは、開発研究が開発実践に対して成し得る重要な貢献ではないかと考えさせられました。
(文責:近江加奈子)