第2回研究会の開催(2021年1月24日)

更新日:3月24日

【はじめに】

 まず、研究部会代表の佐藤仁先生より、本研究会の目的としてODAに関する歴史研究を本格的に行うことに関する説明がありました。


【第1部:下村恭民先生の『日本型開発協力の形成』に関するディスカッション】

 今回の研究会は二部構成となっており、第一部は下村先生の2020年のご著書である『日本型開発協力の形成 政策史1・1980年代まで』をもとに討論を行いました。

 まず、下村先生から本書のメッセージとして以下の5点に関してご説明いただきました。

1. 戦後日本の対外関係は開発協力に頼っていた。

 時代が進むにつれ、開発援助に対して依存度が高まっていき、東南アジアの対日批判や日米経済摩擦などの対処として開発援助が使われた。

2. 異質であることの意味。

 東アジアの開発アプローチは国際開発規範から異質であり、日本の開発協力アプローチも異質である。こうした「二重の異質性」が優良な開発実績を挙げてきたことは、西洋的な「正統」な開発理論に照らして例外的である。

3. 東アジアの経験から、開発を「複眼」で理解する。

 国際開発社会では単一の価値体系、規範で開発を読み解こうとされていた(「単眼」)。しかし、国際社会には「唯一の正統」にこだわらないアプローチが並存している (「複眼」)。

4. 「日本型」開発(その1)。

 インフラ建設、民間直接投資、製品輸入の連携からなる「三位一体」の開発協力モデル。連携するアクター間の「認識モデルの共有」により、プロジェクトの成功確率を上げた。

5. 「日本型」開発(その2)。

 ドナー側が示したニーズと意思に日本側が愚直に伴走するという「顧客志向型」の開発協力や、途上国に学んだ「三位一体型」開発協力モデルなど、ドナー側の理念を重視。


 次に、参加者からの質問に対して下村先生からの応答がありました。主な質問内容としては、以下のようなものがありました。

  • 開発協力の場面であまり聞かれない「顧客」という表現にこめられた意味は何か。

  • 「顧客志向」型において、OECFとJICAのアプローチに違いはあったのか。

  • 「日本型」とはどのようなドナーと比較したときのものか。

  • 非西欧ドナーである中国と比較した際に日本の援助の特徴はどう考えられるか。

  • なぜ日本は「日本型」にアプローチを積極的に国際社会へ打ち出さなかったのか。

 下村先生が若手からの積極的な発言を期待したこともあり、若手から多くの忌憚ない意見が寄せられました。


【第2部:オーラルヒストリーの方法に関するディスカッション】

 第2部では、オーラルヒストリーの方法に関して、峯陽一先生と浜本篤史先生より発表をいただきました。

 峯先生からは、オーラルエビデンスを用いて事実を明らかにするという一般的なオーラルヒストリーではなく、必ずしも事実を明らかにすることを目的としないオーラルヒストリーの可能性を提示していただきました(東京大学出版会「シリーズ 日本の開発協力史を問いなおす」第6巻のご構想)。ODAの事実の部分はJICAなどの文章資料に任せて、プロジェクトの当事者たちからは、むしろ主観を聞くことも実りある調査になるのではないかというお話をいただきました。

 浜本先生からは、ご著書である『発電ダムが建設された時代:聞き書き 御母衣ダムの記憶』を執筆なさる際に行った調査の経験をお話いただきました。浜本先生は、成果物の形を想定した上でプランを策定し、その通りにインタビューを行っていくという形式を取られたそうです。その際に、これまでに語るべき内容を持つのに、語る機会がなかった人を中心に聞き取りをするなどのコツをご紹介いただきました。


【研究会の所感】

 第一部、第二部ともに濃密な内容でお腹いっぱいになった研究会でした。下村先生のご著書をめぐる議論は2時間弱かけても全く時間が足りず、丸一日かけても足りないのではないかと感じるほど、論点が盛りだくさんでした。特に下村先生は若手による発言を大切にしてくださり、進んで質問の矢面に立つという、研究者としての姿勢を背中で見せていただいたことに感銘を受けました。第二部の峯先生、浜本先生のお話からは、オーラルヒストリーが一筋縄ではいかない大変な研究手法であることを改めて認識しました。本研究会がこれから行うことを想定する、開発の専門家が開発の(元)専門家にインタビューをするという形式は、参加者の多くが経験のある途上国での調査とは全く別の種類の難しさがあることを学びました。むしろ過去の調査の経験に拘る事がインタビューの妨げとなってしまう可能性を感じました。

 消化不良を起こさないように、今日の内容はこれからゆっくり時間をかけて反芻したいと思います。


【次回について】

 本研究会は二ヶ月に一度の開催を原則とするため、次回は3月末ごろに研究会を行うということになりました。


文責:宮川 慎司

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