第3回研究会の開催(2021年3月20日)

最終更新: 3月25日

【会の概要】

 今回の研究会では、この研究会の中核に据える問いの設定と今後の進め方について議論が行われました。会の冒頭では、会の目的、これまでの議論の振り返りと共に、参加メンバーから事前に寄せられた日本の開発協力に纏わる素朴な「問い」を整理した結果について大山さんが全体に共有しました。その後、今後掘り下げるべき問いは何か、抜けている視点はないか、オーラルヒストリーの対象の選定、インタビューせずとも答えを得られる問いは何かなど、「問いを濾過する」作業を全体で意見交換することを通じて行いました。


【「問い」の共有】

 事前に収集した参加メンバーそれぞれの「問い」について、大きく分けて4つのクラスターに分類できることが大山さんから共有されました。


<4つのクラスター>

  1. 「開発知」:日本型開発協力・日本の開発学を模索する問い、ODA批判について、学術知と実践知の関係、など

  2. 「アプローチ」:開発協力の動機、日本がODAで得たものは何か、各種開発アプローチの背景と実態、NGOとODAの関係、など

  3. 「国際潮流」:日本型が独自路線を進んだのはなぜか、欧米とどのような対話をしてきたのか、国際潮流との関係、新興ドナーとの関係、など

  4. 「国内調整」:開発協力・ODAの実施にあたる日本国内の利害調整、政策決定過程に関する問い、など

 また、オーラルヒストリーを手法にすることは一つの提案であり、それ以外の方法を考慮しないということではないこと、研究会の大枠は全体で議論をしながら形成していきたいことなど、研究会全体の目的と関連して進め方の確認をされました。その上で、今回の研究会では共有された問いを基に共通する横軸を考えること、インタビュー対象の候補選定、及び対象へのアプローチ可能性について全体で検討することが提案されました。


【全体意見交換】

 大山さんの提案を受け、メンバーそれぞれの考える関心事項や横軸となるテーマ、また今後の進め方や成果物の射程について全体で2時間半ほど議論を行いました。参加メンバーの多様性を反映するように、意見交換のトピックも多岐にわたり話は今回も尽きませんでしたが、集約すると主に以下の点について議論、確認がされました。


  1. テーマ設定(中心となる問い):4つのカテゴリーを参照しながら様々な観点からいくつものトピックが提案、議論されました。大きく分けて「日本の開発協力の歴史を振り返る」という傘に含まれる様々な分析の視座・視点を持ち寄り徐々にテーマの解像度を上げていくのがいいのではないか、という提案と、「学術知と実践知の関係を日本の開発協力を通して探る」というアプローチによって全体の関心が包摂的に捉えられるのではないかといった提案がされました。また、ここで議論している「中心となる問い」の考え方については、インタビューの際のエントリーポイント(話のきっかけ)のような位置付けのものと考え、研究としてのリサーチクエスチョンは実際に手を動かしながら立ち現れてくるものを材料に検討を重ね決めていくのが良いのではないかと佐藤先生より提案されました。

  2. 研究手法:オーラルヒストリーが適当な研究方法であるかどうかは、研究テーマと目的によって立ち返る必要があることを確認し、また、オーラルヒストリー以外の方法をとらないわけではないことの認識が共有されました。一方で、既に決まっているインタビューについては個別ワーキンググループで準備を進め、インタビューの他にも文献レビューなどできることは各自イニシアチブを持って進めることが確認されました。

  3. インタビュー対象の選定:先行研究で明らかにされてこなかった知の表出化のためには、研究者だけでなく実務家の話を聞く必要があるのではないかという認識の下、具体的に誰に話を聞くのが良いか、またはアプローチ可能か、といった話がされました(例:JICAの初期アフリカ担当者)。また、日本の開発知という考え方を打ち出していくためには影の立役者を探るだけではなく、政策決定に関わった人からも話を聞く必要があるのではないか、という意見もありました。インタビュー対象について、現段階で狭めることはせず、既に決まっている2件に加えて順次できることを行いながら、テーマの解像度をあげていくのと共に対象についても都度検討を重ねていく方針が大筋合意されました。また、インタビュー対象の選定の際に考慮すべき点として、それぞれの時代区分を適切に把握しておくことが重要であることが指摘されました。

  4. 成果:大山さんより、今回の議論を踏まえると研究成果は二段階構成で考えるのが良いのではないかという提案がなされました。一つはオーラルヒストリーの記録を資料として出していくことと、その次の段階として、資料を基にした研究会の論考を出していくことが提案されました。

  5. ターゲットオーディエンス:成果発信のターゲットをどう考えるのか議論がされました。日本の開発に纏わる知を総括することを目指すなら、日・英両方を念頭におくことが良いのではないかと話されました。佐藤先生は「我々が扱う開発協力に関する書籍は、大きな書店であってもよくて棚の一列しか占めていない。書店の棚の大半を占める世の中の関心事項(今であれば資本主義か)にどのように我々の領域が接続していくのか、という点を意識して研究の大きな方向性を考える必要があるのではないか」と話されました。


【所感】

 今回の研究会では各メンバーが「中核に据える問い」について考えを共有しましたが、「それについて、自分はこういう理解をしているんだけど〜」という風に、誰かの共有した考えに対して違う立場も提示されながら、議論が深まったり広がったりすることの連続で、今回も非常に学びの多い(自分の勉強不足を痛感させられることと共に、、)、また考えることのエネルギーを楽しく掻き立てられる時間でした。同じ「開発」分野の専門家・研究者の集であっても、それぞれの「経験」から成る世界観は全く異なり、使う言葉の意味することや概念も多様であるので、はっとさせられる場面も多いです。徐々に「言葉の整理」がされ、この研究会メンバー間の「環世界」が醸成されていくように思いました。


 自分は今回Alternative developmentについて考えていることを少し共有しました。例えば東日本大震災、そしてコロナというきっかけで資本主義経済だけに頼った暮らしのあり方を見つめ直し、オルターナティブな選択の一つとして地方移住(贈与経済や自給経済の選択)をする若い世代が日本でも増えてきている、そしてそれを後押ししたい政策も増えてきている。そのようなところと、日本の開発協力の「未来」の部分がリンクしていくと面白いかなと、引き続き皆さんにご指導ご鞭撻いただきながら構想深めていきたいと考えています。


 次回の研究会は5月下旬に行います。第一部は佐藤先生によるご発表、第二部は高橋先生、汪さんによる発表が行われる予定です。


文責:近江 加奈子

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