第4回研究会の開催(2021年5月30日)

【はじめに】

 まず、下村先生をインタビュー対象とするオーラル・ヒストリープロジェクトの進捗共有と本研究会に新たに参加した方々の自己紹介が行われました。それに続いて、3つの報告(佐藤仁先生『開発協力のつくられ方:自立と依存の生態史』高橋基樹先生「国際協調か、固有性の侵害か?:日本のODA史への援助協調の影響」;汪牧耘さん「もう一つの普遍性:開発学の『自己本位』に向けて」)をめぐって、質疑応答が繰り広げられました。最後に、今後の研究会の報告テーマの選定や進め方について説明されました。


【発表の概要】


第一部:佐藤仁先生『開発協力のつくられ方:自立と依存の生態史』

  佐藤仁先生の発表では、佐藤仁先生の2021年のご著書である『開発協力のつくられ方:自立と依存の生態史』の内容をもとに報告されました。最初は、本の表紙のデザインや各章のオリジナリティなところについて説明しました。その後、今回の発表のトピックに入りました。開発協力の「問題案件」を中心に説明しようとする前に、まず、「開発」というものはどのように捉えるかについて、Bates(2001)の見解、いわゆる「開発とは要するに時の経過である」を挙げました。この定義から、長期的な視点から開発協力を検討することの大切さが示唆されました。今回の発表では、フィリピンのカラカ火力発電所という「問題案件」(主にインフラ)の事例を用いて、「時の経過」を経て、「問題案件」に対する評価も変わっている可能性があると説明しました。一方、開発援助プロジェクト(例えば、ダム)が最初に作られた時点で想定できなかった新しい結果あるいは新しい依存関係も「時の経過」を経て現れたと指摘しました。最後のまとめのところに、以下の3点があげられました。

  1. 開発は「時の経過」を経て、その姿を変えるが、変わるプロセスを見届ける外部者は少ない。

  2. 発展≒考えなくてよいことが増えること。「批判」は考えることを促す重要な学びの機会であった。だが、ODA批判は退行しつつある

  3. 開発とは、総じて、一つの依存関係を別の依存関係に置き換える働きかけであった。依存を十把一絡げに否定するのではなく、それが果たしている積極的な役割に目を向けたい。

 要するに、時の経過から見ると、開発協力は、誰かが「つくった」のではなく「つくられた」。


第二部:汪牧耘さん「もう一つの普遍性:開発学の『自己本位』に向けて」

  汪牧耘さんによる発表は、文系の大学院生の研究に対する共通の悩みを出発点とし、個別と普遍の緊張関係、普遍性の捉え方について先行研究を踏み入れながら説明するものでした。最初は、個別と普遍の間に緊張関係が存在するという問題意識を示しました。「ただ一つの事例って何が言えるか?」、「「〇〇モデル/型」はあるか?ないか?必要か?」という研究を進める際に避けてはならない2つの本質的な問いを提起しました。次に、数学や工学によく使われる「脱具体のモデル論」、抽象に価値を求める「知の伝統」(古代ギリシャからのメタファー、ニュートン以来の話法)より、これまで学問の世界で普遍性、「形而上の普遍性」に追求する傾向を示しました。ただ、このような普遍性の捉え方は、「普遍的概念体系の解釈力のため、個別な出来事の生き生きさを犠牲」、「普遍的なものと言われてきたものは正しすぎて役に立たない」などの批判も招致しました。それに対しては、汪さんは、中国人哲学者の陳嘉映の(翻訳可能性、個別を繋ぐ役割が特徴とする)「形而下の普遍性」の主張を踏み入れながら、「複数の普遍性」、「学問分野の普遍性」について検討しました。その延長線で、さらに「形而下・仮言命法の普遍性」という視点から、開発学の学問分野における位置づけを再検討しました。最後に、「開発学本位の普遍性」の構築をどう抉り出すかという興味深いかつ重要な問いを提起しました。



第三部 高橋基樹先生「国際協調か、固有性の侵害か?:日本のODA史への援助協調の影響」

 高橋基樹先生による発表では、レシピエント国に援助を供与する際に、ドナー側において見られる「援助協調」をめぐって議論しました。この発表は、主に4つの部分に構成されます。まずは、広義と狭義の両方から「援助協調の定義」について解釈しました。次に、「2つの援助協調レジーム」、いわゆる1980年代年代以降の「構造調整支援レジーム」と1990年代後半からの「貧困削減支援レジーム」の背景、理念、特徴、問題点などについて説明しました。それから、1990年代まで多くの途上国(特にアフリカ諸国)に見られる援助の失敗や欧米諸国の援助疲れ、とそれがもたらす援助の効果・失敗・協調に関する改革論の必要性を言及しました。援助の失敗に関しては、高橋先生は、「援助の氾濫」、「援助の負のファンジビリティ」という2つの側面から検討しました。「援助のファンジビリティ」は、また「物資援助」、「債務救済」、「一般財政支援」という3つのケースに分けて分析されました。「援助の負のファンジビリティ」という課題に取り組むためには、脱プロジェクト化と、開発計画(貧困削減戦略)全体の厳密な共有、そして一般財政支援への共同拠出が効果的で、必要だと主張されました。最後には、援助協調の現在の状況について提示しました。



【研究会の所感】

 佐藤仁先生よりの発表から、開発プロジェクトの成果は、「時の経過」を経て、最初の時点で予想できなかった変化が発生する可能性はあるとわかりました。このような特徴に対応するために、今後の開発協力の進め方(例えば、事後評価の仕方、事業関係者の配置、地域研究との連携)を再検討することの重要性を感じております。そして、援助プロジェクトの評価を含めて開発のプロセスについて「時間」という概念を念頭に入れながら開発そのものを考える必要があると示唆されました。

  汪牧耘さんよりの発表から、「個別」と「普遍」の関係に対する理解の深化が、個人の研究のデザインを考える際に避けてはならないこと、開発学の学問分野のける位置づけの再認識にも役に立つことだとわかりました。論文の研究問題を考えるにあたっては、「上」(普遍)に行ったり、「下」(個別)に行ったりすることはよくあります。この過程からこそ、自分の研究したい研究問題の意義がわかるようになると考えております。

 高橋基樹先生よりの発表から、プロジェクト別ではなく、援助対象国の全体的な開発計画や財政支出に視野を入れて開発援助の効果を評価することの大切さを認識できるようになりました。ここからは、レシピエント側とドナー側の間に存在する「情報の非対称性」が援助効果の確保に困難をもたらすと感じられます。そして、援助の効果を含めて物事を評価する際には、「部分」と「全体」の関係への理解、全体観の構築が不可欠なことだと学びました。


【次回について】

 本研究会は二ヶ月に一度の開催を原則とするため、次回は7月末ごろに研究会を行うということになりました。




文責:石暁宇

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