第5回研究会の開催(7月31日)

更新日:2021年8月2日

【全体の概要】

 まず、今回から新たに参加された方の自己紹介がされ、大山さんから本研究部会の活動費およびオーラル・ヒストリープロジェクトの進捗状況についての報告がありました。その後、近江加奈子さんと大山貴稔さんがそれぞれの研究について発表し(以下に詳細記載)、それに対して参加者から多くの質疑やコメントが寄せられました。最後に、次回の研究会の予定ならびに今後の研究会の進め方について話し合いました。



【発表について】

近江加奈子さん:「地域コミュニティの自律的発展とは:リレーショナルオートノミーの視点から」

  近江加奈子さんの発表では、まず研究の契機となったESDA(アフリカの持続可能な開発のための教育)に携わった自身の経験について紹介されました。その上で、自律的な発展がどのように起きているのかという問いから、秋田県の五城目と南アフリカのQwaqwaの土着型企業に着目し、地域の自律的発展のメカニズムを明らかにする分析枠組みについての構想が語られました。分析枠組みの構築に向けて、「自律・自立」とは何か(WHAT)に焦点をあて、「自律」を多様な関係性の中に位置づけられるものとした考えから、社会と個人の相互関係に目を向けたリレーショナルオートノミーの視点に着目することが説明されました。

 参加者からは調査対象者が地域社会のどの層に位置づけられるのか、自律の達成をどのように把握するのか、期限をどのように区切るのかなどの質問が挙げられました。また、地域に影響を及ぼす権力や力の働きによって、創造的な活動は大きく制限されるため、個別の事例だけでなく、活動が許容されている理由や権力構造にも目を向ける重要性が指摘されました。質疑応答の中では、様々な視点や他国の事例の話なども飛び交い、本研究が幅広い議論に繋がることが期待されました。


大山貴稔さん:「『平和国家』の生態史:戦後日本の対外関与のつくられ方」

 大山貴稔さんの発表では、ODAを対外関与の一環として捉えなおし、「平和国家」がどのように形成されたのかについて、これまでの研究成果のまとめが語られました。まず、これまで対外関与は経済協力や自衛隊派遣などがバラバラに見られてきたことを指摘し、本研究では対外関与を体系的に把握することが述べられました。その上で、「対外関与を再拡張してきたその動きはいかにして正当化されてきたのか」という問いに対し、言論から見出した社会意識に焦点をあてて分析した結果を説明されました。分析結果では、これまでの対外関与は利他と利己の時代に分けられ、人びとを対外関与に駆り立てる利他的な動きから政府の執行を正当化する利己的な動きへと変化していった過程が述べられました。

 質疑応答では、内/外・自/他・国際貢献/国益などが区別されていたものの、二元論として明確に分けることはできないのではないかという質問が挙げられるとともに、それぞれの言葉の定義は時代によっても異なるため、どのように定義するのか整理する必要があることも指摘されました。これに対し、大山さんは言葉の定義を整理することを課題とし、国内外の事情や出来事と照らし合わせながら日本国内の社会意識の変遷に目を向けていきたいと述べていました。また、発表タイトルにある「平和国家」との繋がりが今回の発表の中では十分に説明されなかったため、今後、書籍化される中でどのように話が繋がるのか注目されました。


【研究会の所感】

 今回の研究会では2名の方が発表し、持ち時間いっぱいまで参加者から質問やコメントが飛び交いました。どちらの発表も幅広い議論につながるような研究であり、様々な視点や関連文献、事例が共有されました。国際協力や開発分野における自分の勉強不足を痛感しつつも、今まで気づかなかった視点や知らなかった知識を得ることができ、学びの多い研究会となりました。

 近江加奈子さんの発表は、土着型企業が盛んな2つの地域を事例として取り上げており、比較検討することで自律的発展の普遍性を見出す可能性が考えられました。地域の自律的発展について異なる地域を比較した文献は馴染みがなかったため、どのような共通点や相違点が見られるのか興味深く聞き入りました。しかし、自律の達成をどのくらいの期間でどのように図るのかについては難しさを感じました。また、地域内外からの力の働きによって地域の自律は絶えず損なわれたり、思わぬ形で発出したりすることもあります。地域内の関係性だけでなく、外部からの働きや力関係など多角的な視点から自律的発展を見る必要があることを学びました。

 大山貴稔さんの発表は、多くの情報を扱いつつ、しっかりまとまっており、門外漢のわたしでもわかりやすく学ぶことができました。分析枠組みとして、社会意識に焦点をあてた点は面白く、政府の関連文書や新聞などから用語などを抽出する手法も興味深かったです。社会意識は政府によって扇動されることもあれば、時代の変化に伴い人びとの認識が変わることによって影響されることもあります。そのため、その時代に国内でどのような事象があったのかに目を向けることは重要だと感じました。また、キーワードとなるいくつかの用語をどのように定義するのかという点についても、時代背景を理解した上で、整理していく必要があることを学びました。


【今後について】

 次回の研究会は9月末に実施予定です。発表者はキム・ソヤンさんと黒田一雄さんです。また、定期的な研究会とは別に、本研究会の成果をより幅広い方々に還元するために公開研究会を実施することが佐藤仁さんから提案されました。

 オーラル・ヒストリープロジェクトに関しては、一部の研究者だけにインタビューするのではなく、様々な年代の研究者や政策実務者の方々へインタビューを実施し、幅広い話を聞きたいという意見が寄せられました。インタビュー対象者の選定については、今後絞っていくことになりました。


文責:近藤 加奈子

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