第6回研究会の開催(2021年9月25日)

【はじめに】

 今回は、黒田一雄さん(早稲田大学)とキム・ソヤンさん(韓国・西江大学)が、それぞれ「国際教育協力」と、「三角協力にみる援助における(不)可視性」について報告し、それらのご発表に基づいて、いつものように活発な議論が交わされました。参加者は13名でした。

【発表の概要】


第一部:黒田一雄さん『国際教育協力の系譜-越境する理念・政策・実践』

 黒田さんのご発表は、現在ご執筆中の上記の単著の内容に即して行われました。冒頭で黒田さんは、著書の目的を「日本の国際教育協力の歴史を振り返り、その変遷や特徴を含めた教育協力の歴史を包括的に記録するとともに、日本の教育支援が何を目指し、どのような貢献を行い、どのような課題に直面し、克服してきたのかを分析し、今後の政策策定及び実施への示唆を導くこと」とされました。その後、日本の国際教育協力の捉え方や考え方についての話題になり、教育のグローバルガバナンスの類型論や、国際教育協力を規定してきた要因などについて、独自の分析を披露されました。

 質疑応答では、グローバルな教育政策と国家による国民教育の緊張関係をどう考えるべきか、そもそも教育における「課題解決」とは何か、中国の教育協力をどう考えるべきか、国際教育協力がうまくいっているのかどうかを測る評価基準はあるのか、グローバルな教育を重視するとローカルな言語や知が捨象されてしまうのではないか、などのコメントや質問が寄せられました。

 これらの質問に対して黒田さんから丁寧な応答が行われ、国際教育協力の潮流が戦後に「戦争の抑止」に置かれていたものが、1990年代に「開発」へと軸足を移し、2000年代に入って再度「平和」に回帰してきたという背景を解説していただき、こうした国際環境の変化とともに国際教育協力の目的や中身も変化してきたという、歴史研究ならではの見通しを披露されました。まさに、この分野の第一人者ならではの包括性と蓄積を感じさせるご報告でした。


第二部:キム・ソヤンさんAid (in) Visibilityから見た日本の三角協力の形成過程

 世界の数多くのドナーの中で、なぜ日本だけが熱心に三角協力というスキームを実施しているのか。ソヤンさんは、この問いへの取り組みとして、(不)可視性という角度から三角協力の形成過程を明らかにする論文を紹介されました。特に、タイと日本の協力に基づく第三国への支援を素材に、日本が「三角協力」を通じて選択的に見せようとしている側面に注目することで、三角協力というロジ的には手間のかかるスキームの有用性が明らかにされました。たとえば、カンボジアやラオスに必ずしも好かれているわけではないタイからの援助は、日本が加わることで中和され、タイとしても援助をやりやすくなります。また日本は、ODAから卒業しているタイに、引き続き関与を継続できるというメリットを得ることができます。

 この報告に対しては、可視性というテーマの可能性について多くの参加者から「ぜひ深堀してほしい」という期待の声が複数寄せられました。質問には、不可視であったものをどのように実証的に確認するのか、地雷除去分野などではカンボジアもピヴォタルカントリー(技術協力供与国)になっていること、可視化のメリットを国、現地事務所などスケールにわけて分析する必要性、協力国間の費用負担などの実態調査の必要性、などのコメントが寄せられました。  ソヤンさんは冒頭、その流暢な日本語で、これまで日本の研究者から多くを学んできたことに対する謝辞を述べられましたが、今後は、われわれ日本人も韓国や中国など近隣国における開発研究の進展から学ぶ態度を持たなくてはならないと感じました。ソヤンさんの研究が開花することは、日本の励みにもなります。今後とも、共同研究を続けていきたいと感じました。 【研究会の所感】 

 本日もあっという間に3時間が過ぎてしまう贅沢な時間となりました。毎度のことですが質問はいくらでもでてくるし、議論したいことも山ほどある、という感じです。コロナ前であれば、研究会後の懇親会で積み残しを一気に片付けることもできたでしょうし、新たな人間関係も生まれたのでしょう。ただ、オンラインにもそれなりの良さがあり、子供の世話があって家から出られない人や、海外にいる人が気軽に参加できているのも、この研究会で実感してきたオンラインのメリットでした。

 毎回、特に計画性もなくランダムに報告者を割り当てるのですが、不思議とテーマ感の共鳴を感じるところがあり、われわれが考えている「専門性」の垣根は思った以上に低いものなのかもしれません。


【次回について】

 本研究会は二ヶ月に一度の開催を原則とするため、次回は11月末ごろに研究会を行うということになりました。報告内容やテーマについては、決まり次第お知らせいたします。

      (記録係 佐藤仁)

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