第7回研究会の開催(2021年11月7日)
【はじめに】
今回は、林明仁さん(上智大学)が「ODAとの距離感-市民社会と軍の事例から」についてご報告され、その後ODAとNGOの関係などについて活発な議論が交わされました。また、峯陽一さん(同志社大学)、大山貴稔さん(九州工業大学)がオーラルヒストリーの進捗について報告していただき、他の方々からも今後の構想に関して多角的なアイディアが共有されました。参加者は15名でした。
【発表の概要】
第一部:林明仁さん「ODAとの距離感-市民社会と軍の事例から」
林さんは、ご自身の実務家としての経験に基づき、ODAがNGO、民間、軍事それぞれとの関係をどのようにシフトさせてきたかについてご発表されました。まず2000年代から2010年代にかけて、特に民主党政権下において、ODAからNGOへの拠出額が増加する一方で、ODA政策へのNGOの影響力が低下していることを指摘されました。そして、開発協力大綱や能力構築支援により、地雷・不発弾撤去支援が軍事と接近していることを、カンボジアの事例を用いて示すとともに、国際的な支援アクターの複雑多様化にも言及されました。また、2010年代の日本企業の盛んなアジア進出を受けてJICAが民間連携支援スキームを急速に充実させると、経済が高度にドル化したカンボジアでは、借款よりもPPP企業による投資が好まれたといいます。この傾向は、平和構築などの経済的リターンの生まれにくい分野では、企業誘致が資金調達の可否を左右することを意味し、人道的問題の成果として経済的指標が重視される時代へ移行しつつあることを考察されました。
質疑応答では、ODAやJICAとNGOとの関係に着目した研究の希少さから、論稿を望む声が多く上がりました。併せて、韓国や1950年代のアメリカとの相違点・類似点が共有され、国際的な次元で見た際に日本が当てはまる類型の検討が提案されました。また、借款は必ずしも同分野で返済する必要はないという指摘や、NGOへお金を流すことで影響力を抑制する意図が自民党にはあったのか、アドボカシーはNGOが企業体に類似してきたときに抜け落ちる要素の一つなのか、などの質問が寄せられました。
これらの質問に対して林さんから、NGOへの想いも込めた、丁寧な応答が行われました。NGOへの資金拠出が常態化していても、ODAとNGOとの間の正しい共通認識と公平な「ルール」があればアドボカシーは継続可能なこと、市民が社会問題にコミットする場(接点)を提供することがNGOの価値であることを解説していただきました。現役で開発実践に携わる専門家として、地に足をつけながらも今後を見据えた、示唆に富んだご報告でした。
第二部:峯さんと大山さん「オーラルヒストリーの経過報告」
峯さんは、先週実施した星野昌子さんへのインタビューについて、インタビューの際の流儀や、聞き取り内容について共有してくださいました。詳細の気になる興味深いお話がたくさん紹介されましたが、詳しくは「文字起こしをお楽しみに」ということでした。また、大山さんには、下村さん・廣野さんへのインタビュー資料の進捗と、今後のインタビュー対象者候補について共有していただきました。開発コンサルタントなど、また違う視点をもった方々からのお話が聞けそうで、今後の報告がさらに楽しみになりました。
質疑応答では、資料の保管先について話し合われ、将来的に失われる確率の低い大学のリポジトリを推す意見が複数聞かれました。また、オーラルヒストリーを通して映し出される時代背景には個人差がある点に留意し、「科学知・経験知・理念知」の3つの大枠を捉えること、そして、様々な相違点・共通点(=多様性)の中にある普遍性を示すことの重要性が指摘されました。また、地域研究やグローバルガバナンスとも連携させて論点を広げられる可能性があり、それぞれの得意分野を活かしつつ、今後もお互いに協力し合っていくことを確認しました。
【研究会の所感】
本日も、興味深いご発表やコメントから楽しく学びを得ているうちに、あっという間に3時間が経ってしまいました。オーラルヒストリーのインタビューを含め、長年実務家として国際援助に携わり、ODAの潮流について生の経験を伴う知見をもっている方々のお話を聞けるのは、本当に贅沢なことだと感じます。また、質疑の中で共同研究の提案が出てくる場面もあり、この研究会という場のもつ可能性を強く感じました。
また個人的には、複数の方々がNGO就職の道を迷われた経験をお話しされていたことも印象深かったです。国際協力に関心を抱く一学生として、自分のキャリアの選択肢の一つと捉えつつNGOの現状を学ぶ、貴重な機会となりました。ありがとうございました。
【次回について】
本研究会は二カ月に一度の開催を原則とするため、次回は1月を予定しています。日下部さんにバングラデシュにフォーカスしたご発表をしていただきます。また、佐藤さんから、翻訳しにくい日本の開発概念について共同研究されている方々に打診をしていただくことになっております。詳しい報告内容については、決まり次第お知らせいたします。
(記録係 田代啓)